Out of Town

Works | 2020年08月13日(木)

小さな写真集『Out of Town』の風景写真は、2004年の春から夏にかけて撮影したものの一部だ。確かニューヨークの大学に通い始めて2、3年で、学校ではそれなりに友人もできてきた頃だった。でも、休みになった途端にひとりきりになってしまう。友人たちはそれぞれの国や故郷の州に帰っていった。何もやることがなくて、構図の練習だと最もらしい理由をつけて電車でコネチカット方面やロングアイランドに出かけていた。前半は冬の終わり頃に35mmカメラで撮影したもの(ニコンだったと思うが機種は忘れてしまった)。曇り空の下、ひと気のない残雪が残る風景を撮ってまわっていた。まだ現代美術のことなど知らず、構図、構図、と自分に言い聞かせながら歩いていた。

後半の写真は同じ年の夏休みにマニュアルの中判カメラMamiya 645で撮ったもので、上がった解像度と抜けるような青空のせいか撮影者の心境にも変化があったのかと記憶を辿る。いや、そんなことはなかった。当時私はコンテンポラリーバレエのカンパニーでダンサーたちを撮影していて、その夏はプエルトリコ公演に同行させてもらえることになっていた。夏休みをひとりではなく、しかも別の国で過ごせる。旅費も経費もカンパニー持ちである。やっと良い夏がやってくる、と思っていた。しかし運営がうまくいっていなかったのか、結局公演はキャンセルになった。当時カンパニーのオフィスはタイムズスクエアにあって、それを知らされた後私はセントラルパークまで歩いた。ふた月以上ある夏休みをひとりきりで過ごさねばならないという事実に呆然として、ベンチに座り少し泣いた。また、風景を撮影して過ごした。

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