LTTR
Works | 2015年02月25日(水)
編集:K8 Hardy, Emily Roysdon, Ginger Brooks Takahashi (#1-3), Lanka Tattersall, Ulrike Mueller
オフセット印刷、32-80ページ、サイズ可変
全5号、エディション:300-1000
Capricious(ブルックリン)発行 (#4はPrinted Matter) 2002.09-2006.10
Artforum誌面にまで浸食した希有なクィアZINEでもあるLTTR。研究者からアーティストまで、さまざまな人々ーレズビアン、もしくは女性であると自認するジェンダークィアによって作られる誌面は、読者の政治性そして性的指向に揺らぎを与える。集団的な編集行為によって形成される声とともに、号ごとに変化するフォーマットや、タイトルに使用され、その読みが号ごとに変わる4つの頭字語が、アイデンティティや著者性の問題を再考する機会を提供する。たとえばタイトルの頭文字は、1号目は「Lesbians to the Rescue」、2号目は「Listen Translate Translate Record」、ほかにも「Lacan Teaches to Repeat」など、さまざまに変わっていく。
アーティストによるポートフォリオのような構成をとるものの、編集者たちのクィア政治や政治的なアートの制作可能性に対する好奇心、そしてLTTRの非営利という運営方針は、まぎれもなくZINE文化の歴史上に位置づけることができるものだ。年一回発行のこの出版物は、まず作品公募から始まり、応募作品はそれぞれの号のテーマとの適合性を見極められ、掲載が決定される。取り扱う媒体もさまざまで、アーティストのマルチプルを含むこともあれば、時には展示と連動することもある。2004年夏、Art in Generalでの滞在制作中に、LTTRは「LTTR Explosion」を開催し(タイトルはLarry-bob Robertsの「Queer Zine Explosion」のオマージュにもなっている)、Gregg Bordowitzのトークやトランスジェンダーの為の法律ワークショップなど、さまざまなイベントを開催。
そのように創作や批評のネットワークに侵入してゆくこの出版物について、Emily Roysdonは言う。「掲載されたテキストを通して、私たちは私たち自身を想像し直すチャンスを得て、互いの症状を演じ合う機会を設けることで、アーティストして、職業人として、考える人としての現状に常に疑問を持てる場所を作りだそうとした。私たちは、古くさい脅威に立ち向かうために新たなチームを組み、フェミニストの性に歴史的な生を受けたことを祝福し、輝けるこの肉体、言語、アイデンティティ、そしてアートとともに、先人たちが拓いた長い道のりを進んで行く。」
1号目に掲載されたRoysdonの「Untitled (David Wojnarowicz project)」は、ランボーのマスクを被り街を彷徨うヴォイナロヴィッチの写真作品を参照するかたちで、ヴォイナロヴィッチの仮面を被ったRoysdonがディルドを使い自慰行為にふける様子などが写真に撮られている。JD SamsonとCass Birdは、彼らが作ったカレンダーを掲載、Dean Spade(Cock Sure)は本質者主義的な身体論が導き出す反=ファッションの運動が時にトランスジェンダーのひとびとを阻害する可能性についてのエッセイを寄せる。Allison Smithがせいさくしたしおりには、「ファービー(*Farby=南北戦争など歴史的事柄を再演する際に、史実とは異なる装いなどをすること)」という表現が、「こういう批判はおこがましいかもしれませんが…(far be it from me to criticize but…)」という、他者の歴史認識における誤認を正す際に、前置きとして使われる言い回しから派生したものである。それは南北ともに、史実再現時において、相手側の下手なまがいものの衣装を否定する言葉だった」と記載されている。
LPケースの体裁をとる2号目は開くとポスターになり、その中にさまざまな記事や写真が、薄茶がかった灰色のインクで印刷されている。Fereshteh Toosiによるマルチプル作品「Dress to Kill」は、戦時中に女性用衛生用品のパッケージに印刷されたプロパガンダ表現を想起させる。作品のラベル部分に掲げられたスローガン「軍と人民部隊とで別行動をとることは、我が国の意図するところではない」は、USO(米軍向けのサービス機関)による文書からの抜粋で、その発言はベトナム戦争後、USOへの支援が減少した際になされたものだ。エディションにはまた、マライヤ・キャリーやパメラ・アンダーソンも描かれている。
事実上の最終号となった第5号についてRoysdonは、「恐ろしいほどに暗い政治の季節」に対して、「あなたの行動をうながす」ためのものだという。螺旋綴じのハードカバーを開くと、G.B. Jonesによる「スケートボード・ガール」や女の子たちの悪趣味なおしゃべりを描いたドローイング、R.H. Quaytmanによる、手書きの女性器を包むような同心円上に「Cliticismという新しい種類の批評(criticism)…空間を横断し、到着ではなく探求を目的とするもの」についてのマニフェスト、そしてRidykeulousによる、Guerrilla Girlsの「The Advantages of Being a Woman Artist」を参照しつつ、WomanをLesbianに入れ替えた作品を見ることができる。